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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)268号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがなく、審決の理由の要点2摘示の第一及び第二引用例記載の発明の内容、同3摘示の本件発明と第一引用例記載の発明との一致点及び相違点<1>、<2>も当事者間に争いがない。

二 本件発明の要旨について

本件発明の特許請求の範囲には、ロール支台がケーシング内に取付けられ、ワーキング・ロールがロール支台内に取付けられ、遊星歯車がロール支台内に取付けられる構成が記載され、本件発明の実施例とされている別紙図面(一)第1図によれば、ロール支台がケーシング外壁に取付けられ、ワーキング・ロールがロール支台外に取付けられ、遊星歯車がケーシング内に取付けられる構成が記載され、両者の示す構成が一致しない。しかし、発明の構成は一義的には特許請求の範囲の記載により把握すべきであり、図面は発明の構成を知る補助的役割を有するにとどまること、後記三1に述べるように本件発明の特許請求の範囲は被処理材として「円形切断面の細長い材料」と記載するのみで他に何らの限度を付していないこと、本件発明は後記三3認定の圧延作用をするものであるが、成立に争いのない甲第二号証の一(本件発明の特許公報)によれば、本件発明の特許請求の範囲に記載された前記各部材の取付け関係の構成によつても圧延作用を奏し得ることが認められることを勘案すれば、本件発明が別紙図面(一)第1図記載の構成を排除するものであるか否かはさて措くとして、本件発明の要旨はその特許請求の範囲に記載されたとおりのものであると認めるのが相当である。

三 取消事由(1)について

1 本願発明の特許請求の範囲は被処理材として「円形切断面の細長い材料」と記載する以外これに対しなんらの限定を付していないし、前掲甲第二号証の一(本件発明の特許公報)によるも、その発明の詳細な説明の項に右被処理材を限定したり、圧延のための圧縮力の数値を限定する特段の記載を見出すことはできない。

2 他方成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例は円柱状部体を被処理材とし、これになんらの限定を付しておらず、「多数のワイヤをより合わせて構成したストランド」を例示的に示していることが認められる。

3 本件発明と第一引用例記載の発明が自転しながら公転するロールによつて長尺材料に半径方向の圧縮力を作用させるものである点で一致することは当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証の一、第三号証により、右一致点を更に具体的に検討すると、両者は、円柱状の長尺材料の軸線を中心として、グループ状の二つ以上のロールが、その軸線が右長尺材料の軸線及び他のロールの軸線に対して傾斜しているが、そのいずれとも交じわらないように配置され、各ロールが長尺材料の軸線及びロール自身の軸心を中心に公転及び自転し、長尺材料の軸心に対し傾斜する各ロールの表面が軸方向に移動する長尺材料に接しながらロールとともに公転及び自転することにより長尺材料を半径方向に圧縮し、かつその直径を減少するように形成された圧延のための装置であると認められる。

このように、本願発明も第一引用例記載の発明も共通した構成と作用により圧延をするものである以上、前者の被処理材である「円形切断面の細長い材料」と後者の被処理材である「円柱状部体」とは、相互に実質的に共通した部分を包含するものということができる。

4 原告は、本願発明が冷間鋼材の処理を行うとともに、主として一〇〇〇度以上の熱間鋼材で、その圧延のため数十トンないし数百トンの圧縮力を要するものを対象とするのに対し、第一引用例記載の発明は圧縮力が数百キログラム程度の冷間鋼材であるストランド又はこれに類する円柱状部体を対象とするものであるとして、両者の被処理材が異なる旨主張する。右主張によれば、原告は少なくとも本願発明が冷間鋼材をも対象とするものであることを容認しているものといわざるを得ないが、その点はさて措くとして、両者の被処理材の間には実質的に共通した部分が認められることは既に述べたとおりである。

原告は、傾斜ロール圧延機が主として熱間鋼材の処理に用いられることが技術常識である旨主張するが、かかる技術常識を認めるに足りる証拠はない。のみならず、原告の主張する技術常識なるものは、冷間鋼材が傾斜ロール圧延機の被処理材であることを否定するものではないから、仮に右の技術常識が立証されたとしても、直ちに原告の主張を裏付けることにはならない。更に、原告は被処理材及び圧縮力に関する前記主張の根拠として、本願発明のワーキング・ロール支台より露出されて配置されていること、また、それが片持式に支持されていることを挙げているが、右はいずれも本願発明の実施例である別紙図面(一)第1図に基づく主張であり、本件発明の特許請求の範囲によれば、ワーキング・ロールはロール支台内に取付けられており、また、その支持態様は限定されていないから、右の図面は原告の主張を裏付けるものではない。このほか、原告は回転軸の勾配の差に関する主張をするが、後記六に述べるように、右構成は圧縮力に応じ適宜決定される単なる設計事項にすぎないから、この点の構成上の差も原告の主張を裏付けることにはならない。

5 そうであれば、被処理材に関する相違点<1>について、格別の差異を認めなかつた審決の判断に誤りはなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

四 取消事由(2)について

1 原告は、本件発明のワーキング・ロールは複数の傾斜表面からなり、別紙図面(一)第1図の圧延材料の絞りを行う変形部分28と右絞り後の圧延材料の矯正を行う平滑部分29より構成される旨主張するので、まずワーキング・ロールの傾斜表面の構成から判断する。

(一) 本件発明の特許請求の範囲は、ロール作用部について「該主軸に対称に該支台内に取り付けられた複数の傾斜表面を有するワーキング・ロール」及び「該円錐台型式の傾斜表面を有するワーキング・ロール」と記載している。右記載によれば、本件発明においては、まず、ワーキング・ロールに円錐台型式の傾斜表面が形成されることが要件とされているものということができる。

(二) 前掲甲第二号証の一によれば、本件発明の特許公報の発明の詳細な説明には、「上記ワーキング・ロール27の作動範囲すなわち変形部分28に沿つて生ずる周速度の差が比較的少なく、変形部分28にさらに平滑部分29が続いている。」(四欄三行ないし六行)「圧延材料軸線に対して急傾斜に配置されたワーキング・ロールの使用により一部分において圧延材料の絞りを行い、広い他の平滑部分が圧延材料の平滑、すなわち精密加工に使われるワーキング・ロールを使用することができる。」(四欄三六行ないし四〇行)との記載があることが認められ、前者の記載の「作動範囲」及び後者の記載の「一部分」(いずれも傍点を付した箇所)が変形部分を指すことは明らかであるから、右記載によれば、ワーキング・ロールの回転により、変形部分が前記三3認定のような圧延作用を行い、平滑部分が圧延を完了した部分の平滑作用(原告主張の矯正作用)を行うものであるということができる。

(三) このようにワーキング・ロールによる平滑作用については本件発明の特許公報中の発明の詳細な説明には記載されているが、特許請求の範囲には記載がなく、ワーキング・ロールによる絞り作用即ち圧延作用が記載されているにすぎない。

また、前掲甲第二号証の一によれば、右公報の発明の詳細な説明の他の箇所には「円錐状またはきのこ状に形成され、好ましくは平滑部分が設けられたワーキング・ロールが好ましいことが立証されている」との記載(三欄三八行ないし四一行)があることが認められる。

更に、前掲甲第二号証の一によれば、右公報の六欄以下の発明の要約として一三項目の記載があるが、このうち(1)の記載(六欄三行ないし二七行)は各部位に番号が付されている以外は本件発明の特許請求の範囲と全く文言を同じくするところ、その(13)には「ワーキング・ロール27が円錐形またはきのこ状に形成され平滑部29を有することを特徴とする第一~第一二項に記載の傾斜ロール圧延機」と記載(七欄二三行ないし二五行)されていることが認められ、右各記載によれば、(13)の発明に記載されている平滑部29は、本件発明の特許請求の範囲と記載を同じくする(1)の発明の付加的構成にすぎないものということができる。

以上の検討の結果を総合すれば、圧延作用を行わず、圧延完了後に平滑作用を行う平滑部分は本件発明における必須の構成要件と認めることはできないものというべきである。

(四) このように、本件発明のワーキング・ロールにおいて平滑部分が必須の構成でないとすれば、特許請求の範囲の「傾斜表面」とは圧延作用を行う変形部分のみを指すことになるが、そう解した場合特許請求の範囲の「複数の傾斜表面」の記載との関係が問題となる。もとより変形部分が二つ以上の円錐台を接合した傾斜表面により形成されることがあり得るところがあるが、少なくとも必須の構成を示すべき実施例である別紙図面(一)によれば、変形部分28はその表面に若干のふくらみがあるものの、一個の円錐台型式による傾斜表面により形成されていると認めるのが相当であり、また、前掲甲第二号証の一によれば、変形部分としての傾斜表面は一個であつても十分に圧延効果を達し得るものと認められ、同号証中に圧延用の傾斜表面を複数備えることにより得られる特別の効果に関する記載を見出すことはできない。

そうであれば、本件発明においてワーキング・ロールの個数については特に限定がなく(一個であつてもよい)、「複数の傾斜表面を有するワーキング・ロール」との記載は、「複数の……ワーキング・ロール」とワーキング・ロールの個数を限定する趣旨と解するのが相当である(ワーキング・ロールが複数であることは、特許請求の範囲の「該ワーキング・ロールの各々が該主軸心に急勾配であるのであるが、……」の記載から明らかなところである。)。

2(一) 前記のとおり第二引用例記載の発明が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、別紙図面(三)第2図の同引用例の金属加工ロールでは接合された二つの円錐台の傾斜表面のうち本件発明のワーキング・ロールの変形部分に酷似した下側(大きい方)円錐台の傾斜表面(下側傾斜表面)が回転することにより拡径される管の周壁の肉厚を減少するためこれを圧縮し、圧延する作用をしているが、上側(小さい方)円錐台の傾斜表面(上側傾斜表面)は拡径される前の管を案内するにとどまり、下側傾斜表面のような圧縮圧延作用をしていないものと認められる。

そして、前記二3に認定したような圧延作用をする第一引用例記載の発明におけるロールの鼓状をした胴の部分の作用部に代えて、第二引用例記載の前記下側円錐台により形成される傾斜表面を採択し、これに円形切断面の細長い材料の圧延を行わせる本件発明の構成を想到することは、当業者にとつて容易になし得るところというべきである。

(二) 審決は、本件発明の変形部分と平滑部分の合体した傾斜表面と第二引用例記載の発明の下側及び上側傾斜表面を対比し、本件発明と第一引用例記載の発明の「ロールの形状の差異に相当する上記相違点2を格別のものとすることはできない。」と判断したものと推察される(右の摘示は、「相違点<2>は第二引用例記載の形状のロールから容易に想到することができる。」との趣旨と解せられる。)。しかし、前記のように平滑部分は本件発明の必須の構成とは認められないから、これを対比の対象とした審決はその判断の過程において誤りをおかしているが、第二引用例記載の発明から本件発明の容易推考性を肯認した結論自体は正当である。

3 原告の主張は本件発明のワーキング・ロールの傾斜表面が変形部分と平滑部分により構成されることを前提としてなされているが、既に述べたようにその前提が採り得ないものである以上、この点に関する原告の主張は失当である。

五 取消事由(3)について

1 相違点<3>、<4>について

(一) 相違点<3>について

第一引用例記載の発明において別紙図面(二)第1図のフレーム4が円柱状物体の軸線を軸として回転可能であつて外部から駆動されること、作用部が鼓状をなすロール3が実質的にフレームに回転可能に両端支持されていることは当事者間に争いがなく、この事実と前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載の発明では、本件発明のロール支台に相当するアーム14が本件発明のケーシングに相当するフレーム内に一体として取付けられていることが認められる。

他方、本件発明の特許請求の範囲には、「圧延材料がその長手方向に通過するケーシングと該圧延材料の長手方向に延びる主軸心の回りを回転するため該ケーシング内に取り付けられたロール支台と……」と記載されており、審決が相違点として摘示したように、本件発明においては一見、ケーシングとロール支台が二分されているようにみられる。しかし、右記載はケーシング内のロール支台の取付態様について何らの限定を付していないから、本件発明においてもケーシング内部にロール支台が一体的に取付ける構成を排除していないものというべきである。そうであれば、この点において両発明に差異はない(もつとも、別紙図面(一)第1図と同図面(二)第1図を対比する限り、ケーシングとフレーム、ロール支台とアームの形体自体に差はあるが、右図面はいずれも各発明の実施例を示したものにすぎず、しかも、ロール支台がケーシング外に取付けられている別紙図面(一)第1図のケーシングとロール支台は本件発明の実施例であることさえ疑わしいから、右のような形体上の差は前記判断の妨げとなるものではない。)。

(二) 相違点<4>について

当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載及び第一引用例記載の発明によれば、両者の間に審決摘示に係る相違点<4>の構成上の差があるものということができる。しかし、後記2に述べるように右相違点に対する原告の主張は理由がない以上、右の構成上の差は、ワーキング・ロールを自転しながら公転させるための歯車の数と組合せの差にすぎず、両者間に格段の技術上の差異はなく、単なる設計事項にとどまるものと認めるのが相当である。

2 原告の相違点<3>、<4>に関する主張は、要するに、本件発明では、太陽歯車とかさ歯車との間に遊星歯車を挿着し、ロール支台が回転可能なようにケーシングに別体として取付けられ、これとともに角度γの調整機構を構成要件として備えることにより、角度γの調整をすることができる点で第一引用例記載の発明と異なるというにある。

しかし、本件発明の特許請求の範囲の中に原告主張に係る二構成とともに角度γの調整をする機構を構成要件とする記載を見出すことはできない。また、前掲甲第二号証の一によるも、本件発明の特許公報の発明の詳細な説明の項にも右二構成が角度γの調整をすることができることを示す記載を見出すことはできない。

原告の右主張はケーシングとロール支台につき別紙図面(一)第1図のようなケーシングの外部にロール支台を別体として取付けることを前提としているが、既に述べたように本件発明ではケーシング内にロール支台を取付ける構成を含むものであり、しかも取付態様に限定がなく、仮にこの内部取付けの構成でロール支台を回転可能とすれば、角度γの調整が可能であるとしても、そのためにはロール支台を回転可能とするための調整機構を付加することが必要であるが、本件発明の特許請求の範囲にはそのような構成の記載はない。原告はケーシングとロール支台の取付けが回転のための取付を意味する旨主張するが、前掲甲第二号証の一により原告主張の他の記載を参酌するもケーシングとロール支台の取付けの記載をそのように解することは困難というほかない。

なお、ワーキング・ロールの回転軸心と主軸心と交じわる仮想線との間の角度γの調整に関する請求原因四3(一)の事実は当事者間に争いがなく、このように調整機構を備えることが技術常識であるとしても、そのこととこれを当該発明の構成要件とするか否かということは全く別問題であることはいうまでもないところである。

3 以上のとおり、取消事由(3)は理由がなく、相違点<3>及び<4>について格別の技術上の差異を認めなかつた審決の判断は結論において誤りではない。

六 取消事由(4)について

本件発明の特許請求の範囲には「該ワーキング・ロールの各々が該主軸心に急勾配の角度であるが」と記載されているから、ワーキング・ロールの回転軸を急勾配に取付けることは本件発明の構成要件である。他方、前掲甲第三号証によるも、第一引用例にはロールの回転軸の勾配について特に限定を付した記載を見出すことはできない。このように、ワーキング・ロールの回転軸の勾配の構成に関し、本件発明と第一引用例記載の発明との間に相違があることが認められる。

しかし、本件発明において、「急勾配」とは具体的にどの程度を指すのかについては前掲甲第二号証の一によるも明らかでない。原告は、本件発明と第一引用例記載の発明において加えられる圧縮力に差があることを前提とした主張をしているが、本件発明において圧縮力に対する特段の限定はなく、また、両者の被処理材に実質的に共通した部分があることは前記のとおりであるから、両者の圧縮力に常に差があるということはできない。したがつて、両者の圧縮力に差があることを理由に右の勾配に実質上差があるとすることは相当ではない。のみならず、ワーキング・ロールの勾配は被処理材の種類、圧延の程度即ち必要とされる圧縮力の程度によつて適宜決定し得る事項であり、第一引用例記載の発明の実施例である別紙図面(二)においても、かさ歯車17、ピニオン18の大きさや傾斜を変えることにより、ロールの回転軸の勾配を変化させることは可能であるということができる。

そうであれば、ワーキング・ロールの勾配は単なる設計事項というべきであるから、審決が右の相違点を看過しているとはいえ、その看過は結論に影響を及ぼすことはない。

七 以上のとおり原告の取消事由はすべて理由がなく、審決はその結論において正当であるから、本訴請求を失当として棄却する。

〔編註その一〕 本件発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

圧延材料がその長手方向に通過するケーシングと、該圧延材料の長手方向に延びる主軸心の回りを回転するため該ケーシング内に取り付けられたロール支台と、該主軸に対称に該支台内に取り付けられた複数の傾斜表面を有するワーキング・ロールと、該ワーキング・ロールの各々が該主軸心に急勾配の角度であるが該軸心と交わらないように配置された第二の軸心の回りを回転するために取り付けられ、該主軸心から一定距離を置き動作し、又該円錐台型式の傾斜表面を有するワーキング・ロールが該ワーキング・ロールの外側線を該主軸心の領域内で交わるように延ばし、該圧延材料を軸心方向に進め且つ絞る該ワーキング・ロールと該支台との回転のための第一の駆動装置と、該ロール支台内に取り付けられ且つベベル・ギヤを介し該ワーキング・ロールに接続された遊星歯車と、該ケーシング内に取り付けられ且つ該ワーキング・ロールを駆動するために該遊星歯車に噛合う太陽歯車と、該ワーキング・ロールと該ロール支台との必要な異なる回転比を提供するため該太陽歯車に接続された第二の駆動装置とを具備する円形切断面の細長い材料を絞るための傾斜ロール圧延機(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面 (一)

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